導入事例兵庫県宝塚市教育委員会 様
埼玉県新座市教育委員会 様

生成AIの校務での活用に関する実証研究の取り組み 成績情報、指導要録などを取り込んだ生成AIチャットボットで校務DXの可能性を探る

  • 生成AIソリューション
    • 兵庫県宝塚市教育委員会
      教育研究課 指導主事
    • 平井 大貴 様
    • 兵庫県宝塚市立宝塚第一中学校
      主幹教諭
      (前 兵庫県宝塚市教育委員会 教育研究課 指導主事)
    • 柏木 啓 様
    • 埼玉県新座市教育委員会
      教育支援課 主任
    • 森 智寛 様

弊社がシステム開発を支援したお客様の声を映像でお届けします。開発の背景や効果などについてお話しいただいておりますのでご覧ください。(再生ボタンを押すと、音声付きの動画が始まります。)

Sky株式会社は、文部科学省「生成AIの校務での活用に関する実証研究(令和6年度実施)」の委託を受け、生成AIチャットボットシステムを開発。実証地域である兵庫県宝塚市様、埼玉県新座市様にこのシステムの活用に取り組んでいただいています。これまでの取り組みの成果や課題、今後の展望などについて、宝塚市教育委員会 平井 大貴 指導主事、宝塚市立宝塚第一中学校 柏木 啓 主幹教諭、新座市教育委員会 森 智寛 主任にお話を伺いました。

セキュアな環境を構築し、
子どもの個人情報を扱える生成AIチャットボットを開発

Sky 文部科学省では、教職員の働き方改革を進めるために、校務に生成AIを活用することが急務だと位置づけています。しかし、先生方が「ChatGPT」などの無料の生成AIを活用することはあっても、子どもの個人情報や機微な情報を用いた生成AIの実践例がないことが課題となっていたようです。

そこで弊社は、【図1】のように外部に情報が漏れないセキュアな環境で、子どもたちの情報を取り込める生成AIチャットボットシステムを開発。現在、両自治体様に活用いただいています。この取り組みに臨まれるにあたって、どのようなお考えをお持ちだったのでしょうか?

新座市 森氏 先生方はもっと子どもたちの指導に時間をかけたいと思われています。しかし、日々校務に追われているのが現状です。そこで、生成AIのチャットボットシステムを活用し、気軽に問いかけて回答が得られる環境ができれば、校務にかける時間を削減し、本来時間をかけるべき、子どもたちと向き合う時間を確保できる。教育DXを推進していけるのではないかと考えました。

宝塚市 柏木氏 おっしゃるとおりですね。本市でも、子ども一人ひとりに向き合う時間を十分に確保することが難しい現状があったように感じます。今回開発されたチャットボットシステムのポイントは、子どもの個人情報を扱えることです。例えば、成績や出欠状況などの個人情報を生成AIに与えれば、それらの情報を基にした回答が得られます。このシステムを活用すれば、子ども一人ひとりに合った指導方針を考えるときに役立てたり、教員が気づけなかった新たな魅力や成長の兆しを見つけたりできるのではないかと可能性を感じました。

【図1】生成AIを活用したチャットボットシステムの構成

子どもの機微な情報を基にした
生成AIの活用をめざす

Sky 【図2】は、チャットボットシステムの画面です。先生方がプロンプトといわれる疑問や指示を入力すると、生成AIが回答する仕組みです。

 先ほど宝塚市様がおっしゃったように、今回のシステムは、子どもの個人情報や機微な情報を扱えることが大きなポイントです。メニューの「校務データ利用チャット」を選択すれば、データレイクに格納した機微な情報を踏まえた回答を得ることができます。また、プロンプトをどう入力してよいか分からない方向けに、シーン別のプロンプト例も用意しました。

そのほか、時事情報や推薦図書などを提案する「学級だより作成」機能も搭載。段階的に機能を増やしていきました。【図3】

【図2】生成AIチャットボットシステムの画面

【図3】学級だよりの作成をサポートする機能

指導要録などを格納。
有効な活用法を探って試行錯誤

Sky 本研究は【図4】のように3つのステップを用意し、随時弊社で研修を行いながら進めていきました。まずはステップ1として、子どもの情報を取り込んでいない一般的な生成AIに触れてもらう期間を設けました。

【図4】生成AIチャットボットシステムの活用ステップ

宝塚市 平井氏 段階を踏みながら、活用を広げていけたことは良かったと思います。しかし、思ったよりもステップ1の定着に時間がかかり、2024年度の1年間をこのフェーズに注力してもよいのではないかと感じたほどでした。

Sky ステップ1の段階で課題もありましたが、ステップ2では、子どもの個人情報や機微な情報をデータレイクに格納していただきました。あらためて、両自治体様でどのようなデータを準備したのか教えていただけますか?

宝塚市 柏木氏 本市では、教育委員会が一括して、すべての児童生徒の指導要録を格納しました。これは、子ども一人ひとりに合わせた指導方針を生成AIが提案してくれることを期待したためです。

しかし、指導要録は成績や出欠状況などの数値の記録が中心であるため、その子自身の本質に関わるような成果物や詳細な記録は十分に含まれていません。そのため、期待したような活用にはつながりませんでした。

新座市 森氏 本市では学校の先生方にデータの格納はお任せし、それぞれの判断で幅広くデータを取り込んでいただいています。指導要録だけでなく、個人的に作ったメモなどの形式の異なるデータが大量に集まり、その結果、生成AIに質問を投げかけても、意図とは異なるデータが参照される事象が発生してしまいました。

こうしたことから、「人が見やすいデータ」と「生成AIが理解しやすいデータ」には違いがあることが分かってきました。例えば、「Microsoft Excel」でセルを結合すると、人にとっては見やすいですが、生成AIは結合して体裁を整えるとセルを読み飛ばしてしまう動きがあるようでした。

宝塚市 柏木氏 なるほど。やはり最初からうまくはいきませんよね。本市では、道徳の時間に子どもたちが書いた成果物を格納することにも挑戦しました。子どもが何を考え、どのように物事を捉えているのかが明確になれば、指導に役立つと考えたからです。しかしこれも、想定どおりには進みませんでした。

Sky 「思ったような結果が出てこない」というご相談をいただき、弊社としても原因を分析してチューニングすることを繰り返しました。新座市様がおっしゃっていたように、データのかたちという点は確かに、生成AIの性質が影響していたかと思います。しかし、プロンプトの書き方である程度改善できるところもあったのではないかと感じます。

新座市 森氏 そうですね。生成AIに取り込むデータのかたち、プロンプトの書き方という2軸で、回答の精度を高めていく必要があるのだという学びがありました。

各市の独自機能が活用の促進につながる

Sky それぞれの自治体様に独自機能を搭載しました。宝塚市様は、「ベテラン教師 青空先生」というベテラン教師の役割を生成AIに担わせ、先生方の悩みに答えてくれる機能を。新座市様には「校務支援システムFAQ」を用意しました。こういった機能については、どのような印象をお持ちでしょうか?

宝塚市 平井氏 本市では、若手教員も働きやすい環境を整えることをめざしています。その実現に向けて生成AIで「教員が気軽に相談するとベテラン教師のように助言してくれる環境を作れないか」と考えました。

若手教員がつまずきを感じたときに、生成AIに相談することで、解決の糸口を見つけられるのではないかと思いました。気軽に頼れる存在が増えることは、若手教員もいきいきと活躍できることにつながると感じます。

実際に「青空先生」に困っていることを相談すると、アドバイスがもらえるだけでなく、「お疲れですね」とねぎらいの言葉が返ってくるので癒やされます。実際に利用した先生からも、「アドバイスが的を射ている」という評価が寄せられました。

新座市 森氏 ベテランの先生が担っている特定の業務を「青空先生」が学習できれば、どの先生でもその業務に対応できるようになりますね。青空先生を頼ることで業務の属人化が防げそうです。

Sky 新座市様の「校務支援システムFAQ」についてはいかがでしょうか?

新座市 森氏 本市は校務支援システムを入れ替えたばかりのタイミングで、教育委員会に多くの問い合わせが寄せられていました。さらに、先生方は多忙で、疑問があっても教育委員会の業務時間内に問い合わせができない状況もあるため、この機能が役立っています。

宝塚市様の「青空先生」も本市の「校務支援システムFAQ」も、先生方が自分のタイミングで気軽に相談したり、問い合わせたりしており、生成AIが両市の抱える課題解消に向けた有効な手だての一つになり得ると感じられました。

Sky 新座市様では、「校務支援システムFAQ」を活用してくださっている方々が一定数いることは、ログを見ながら弊社でも認識しています。

新座市 森氏 そうですね。教育委員会にかかってくる問い合わせの電話の数が減り、業務負担の軽減を実感しています。おそらく、この機能を知った方が学校内などで広めてくれているのだと思います。

宝塚市 平井氏 新座市様で「校務支援システムFAQ」を活用していると聞いて、本市でも利用することにしました。指導要録の情報を用いた生成AIをうまく活用できなかった先生も、このFAQなら活用できたケースもあり、良い活用事例の一つだと思っています。

生成AIで「クラス替え」「家庭訪問のスケジュール」の
素案を作成

Sky 現場の先生方にこのシステムの活用を広げるために、各市で10、11月に研修を実施し、その結果、両自治体様ともに11月に活用率が伸びました。

宝塚市 柏木氏 この研修では、ワークショップ型でディスカッションしながら、各校が抱える課題を共有し、生成AIをどのように活用すれば解決に近づけるのかを考えました。本市では、各校の情報担当を務める先生方にご参加いただきました。2学期中にほぼすべての学校を訪問した研修では、生成AIの研修を盛り込んでいたことから、「あの生成AIか」とある程度システムについて理解をされている方が多かったと思います。

また、この研修では、所見作成への生成AIの活用も取り入れていました。所見作成は、負荷の高い業務の一つです。参加した教員が研修後に「学校内でも伝えていきたい」と言ってくれたので、研修で話し合ったことを現場に持ち帰り、校内で共有してくれたのだと思います。その結果として、実際に3月に活用率が上がっています。

新座市 森氏 10月の研修後に活用率が向上したことは本市としても実感しています。この研修を機に、システムについてより詳しく知りたいと、Sky株式会社の担当者と直接メールでやりとりする先生もいました。丁寧にサポートいただいたことも活用率の向上に寄与したと感じています。

また、本市では、特別支援の児童生徒への支援策を検討する研修においても、生成AIを活用しました。架空の児童生徒に関する情報や条件を入力し、支援策を生成AIに提案してもらう取り組みです。その提案を基に、教職員が児童生徒の実態と照らし合わせながら、保護者面談で伝える内容を整理しました。

生成AIから得られた回答は、教職員同士が議論して導き出した結論と同じ方向性で、実態に即した見解が得られると実感できました。特別支援の知見や経験が少ない場合でも、生成AIを活用すれば子どもたちを適切に支援できるのではないかと、興味を持たれた先生方が増えたようです。

宝塚市 柏木氏 本市では、クラス替えに生成AIを活用した学校もありました。セキュアな環境であることを生かして、学習活動に関するデータだけでなく、子ども同士のトラブル、家庭環境など機微な情報も生成AIに取り込みました。その結果、ある程度かたちになり、素案を作成することができました。最終的に教員の目で確認するのですが、業務時間の削減につながったと感じています。

新座市 森氏 本市では、家庭訪問のスケジュール案の作成に生成AIを活用しました。住所や保護者からの希望日時などを入れると、移動時間を踏まえたスケジュール案が作成できました。

しかしわずかながら、「本当にこの距離をこの時間で移動できるのか」といった部分もありました。宝塚市様と同様に、人の目でのファクトチェックは欠かせませんが、素案作成という意味では、時間削減になったと思います。

教育委員会と現場の教員が協力し、
子どものためになる生成AI活用を広げる

Sky この生成AIチャットボットシステムの活用は2025年度も続きます。さらに活用を充実させるために、2024年度の課題をあらためてお聞かせください。

新座市 森氏 本市では、2024年度の取り組みを通じて、管理職やICTに明るい教員など一部の人だけが積極的でも活用は広がらないと実感しました。組織一丸となって活用促進をしていく必要があると思います。

一方で、2024年度は、25~30%の方が定常的にこのシステムを活用したという結果でした。個人的には高い数値だったと受け止めています。生成AIという未知の領域に対して、使い方が分からないなかで、25~30%の方が試行錯誤した。その結果、得体の知れないものだった生成AIの「かたちが見えてきた」というのが1年間の歩みだと感じています。

宝塚市 平井氏 本市の反省点は、生成AIがどのように使えるのか、その有用性を先生方にお伝えすることに時間がかかってしまったことです。それでも、ステップ1、2と段階を重ねるごとに、利用する先生が増えていき、少しずつ理解が広がったのではないかと思います。

教育委員会としてサポートしていくので、先生方にも生成AIについて学んでほしいと考えています。学ぶ時間を確保するのは難しいことだと思います。しかし、そこを乗り越えれば、生成AIを使って校務の負担を軽減でき、子どもと向き合う時間が確保できる。このことをどのようにお伝えしていくかが、教育委員会としての今後の課題だと考えています。

Sky そういった課題を踏まえて、2025年度の期待をお伺いしたいと思います。

宝塚市 平井氏 2025年度は柏木先生が学校で教員をしています。教育委員会として、システムの活用を推進することに加えて、柏木先生が現場でも広めてくれるので、この存在を大きく感じています。

そしてさらに現場の先生方とも協力しながら、子どもたちのためになるより良い活用方法を探求していきたいと考えています。

宝塚市 柏木氏 現在、子どもたちが授業の理解度を言語化したものを生成AIに蓄積しています。このデータに、テストの点数のデータを加えれば、「こんな表現をしている子はこの点数だった」という分析ができます。一人ひとりに合った指導方針の作成に向けて、役立つ提案を生成AIにしてもらいたいと考えています。

冒頭にも申し上げましたが、このシステムはセキュアな環境で子どもの個人情報を格納できることがメリットだと考えています。この環境を生かしながら、さまざまなデータを集め、それをどのように生かせるのか、研究を進めていきます。

新座市 森氏 2024年度、先生方は通常の業務に取り組みながら、使ったことのない生成AIを活用することに負担感があったかもしれません。しかし、この1年間の取り組みにより、2025年度は生成AIを活用することへの負担が小さくなっていると考えています。昨年度の経験を生かしながら、先生方が自分なりに校務負担の軽減につながる活用を考えていけるように、教育委員会としてサポートしていきます。

Sky 弊社としても、システムの機能向上を図り、2025年度は生成AIにダッシュボードを掛け合わせた機能をリリースします。今後も、先生方が子どもたちと向き合う時間を増やせるよう、貢献していきたいと思います。

2025年6月取材

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