課題・背景
2035年までに多くの組織の仕事をAIに代替させる
当社では、デジタルスキルを強化し、持続可能な成長を実現するためのビジョン「KIRIN Digital Vision 2035(以下、KDV2035)」を掲げています。このビジョンでは、人がやらなくてよい仕事をAIに任せ、人にしかできない仕事や価値を生み出す仕事を加速させる方針が示されています。
さらにKDV2035では、2035年までに多くの組織の仕事をAIに代替させることを目標に据えています。近年、ChatGPTをはじめとする生成AIが広く注目されており、今後もその応用範囲や支援領域のさらなる拡大が期待されています。生成AIの活用により、KDV2035に掲げた目標を達成し、削減した時間で価値創造をしていくことが、企業競争力の強化につながると考え、2024年から「KIRIN BuddyAI Project」を推進。当社独自の生成AIシステム「BuddyAI」の開発・活用を進めているところです。
システムについて
自律的に業務を進める「エージェント」を構築
「BuddyAI」は、まずマーケティング領域の約400名の従業員から活用を開始し、その先行導入の結果を踏まえて、2025年6月に国内全従業員約15,000名※へ展開しました。【図1】のように、段階を踏みながら機能を追加していき、最初は「シンプルチャット」として、ChatGPTをセキュアな環境で利用できる仕組みを整備。次にRAG機能を追加し、社内のデータベースやSharePointに格納された資料を検索対象とし、生成AIが外部知識だけでなく、社内固有のナレッジに基づく回答を生成できる仕組みを実現しました。
- 国内グループ会社のうち、標準化された社内システムを利用できる会社に所属する全従業員
【図1】
そして現在、注力しているのがエージェント機能の強化です。この機能は、業務を代替するための「サブエージェント」を多数構築した上で、ユーザーが質問を投げかけると、エージェントである「BuddyAI」が適切なサブエージェントを選んで指示を出す仕組みです。
最終的には、「どのサブエージェントが、どの領域をカバーできるのか」を把握しているAIのコアを形成することで、自律的にサブエージェントを組み合わせて指示を出し、取得した情報を基に回答を生成。ユーザーが投げかけた質問に対して、プラスアルファのインサイト(洞察)を提示できるシステムを目指しています。
例えば、【図2】のように、ユーザーが❶「先月の一番搾りの売り上げは?」と質問すると、「BuddyAI」はユーザーの質問を❷「売り上げ情報の取得」「売り上げのグラフ作成」「在庫状況の確認」といった複数のタスクに分解。次に、各タスクを担当する❸適切なサブエージェントに指示を出し、❹取得した情報を整理して回答を生成します。ユーザーが明示的に指示をした「先月の売り上げ数値」だけでなく、過去半年間の売り上げの推移を示したグラフや在庫状況も提示し、さらに、ほかのチームとの連携まで提案します。
【図2】
開発手法について
両社にPOを置く2名体制で、
アジャイル開発を進める
シンプルチャットおよびRAG機能についてはウォーターフォール型でしたが、エージェント機能はアジャイル型で進めています。いずれの開発もSky株式会社に委託しており、同社の開発知見を取り入れながら推進してきました。
特にアジャイル開発においては、当社には十分な経験がなかったため、プロダクトオーナー(PO)を当社とSky株式会社の双方に配置。両社のリーダーとして、PO同士が密に連携し、課題の共有などを行いながら開発を進めています。
現在は、業務を代替させるために必要なサブエージェントの設計と実装に取り組んでいる段階です。各現場の担当者が「どの業務を、どのように任せるのか」を検討しながら進めています。サブエージェントは、任せたい業務に合ったモデルや情報の参照先などを選定して、柔軟に設定でき、こうした仕組みが本システムの大きな特徴だといえます。
生成AIの技術進歩は極めて早く、私たちにもこうした進歩に柔軟に対応していくことが求められます。柔軟にサブエージェントを設定できる仕組みも、技術の変化を考慮して導いた方向性です。今後も技術進歩に対応しながらSky株式会社と連携して開発を進めていきます。
効果1
マーケティング領域で
約39,000時間の創出を実現
シンプルチャットでは、議事録の作成や文章の要約など、汎用的な活用が中心でした。RAG機能を追加したことで、過去のナレッジ、データベースの情報などを基に、市場データの分析レポートの作成を支援するといった活用が実現。データの取得や加工、アンケートの作成・分析などを生成AIに委ね、その情報を基に人間がより深く分析したり、生成AIの活用で削減できた時間で新たなマーケティング施策を検討したりするという想定通りの活用が生まれています。
マーケティング領域では、導入初月から60%を超える利用率を獲得し、当初15種類だったプロンプトテンプレートも、従業員の声を反映して100種類以上に拡充しました。その結果、年間で当初の想定を上回る約39,000時間の時間創出効果が得られています。
全社展開にあたって活用を広げていくために、積極的に生成AIを活用していきたいメンバーを募集したところ、500名ほど手が挙がりました。このメンバーに生成AI活用を学んでもらい、事業部の中で横展開してもらったことで、全社的に活用の裾野が広がっています。
効果2
Sky株式会社の伴走により
アジャイル開発の知見を蓄積
Sky株式会社と連携したことで、当社としてアジャイル開発の知見を蓄積できた点も成果の一つです。当社の野中は、入社1年目からPOを務めており、Sky株式会社のPOと連携することで、アジャイル開発への知見を吸収できました。
特にメインペルソナの設定においては、当社からの要望が抽象的であったにもかかわらず、情報を整理しながらマトリックスを作成するなどのサポートをしていただきました。検討の結果、メインペルソナを入社1~5年目の若手社員に設定。これは、人がやらなくてもよい仕事をこの層が担っていることが多いためです。全社展開する際には、メインペルソナに合わせてUI / UXも刷新し、モダンなデザインや直感的な操作性を実現できました。
POには主に「製品のビジョンを明確にする」「機能や改善の優先順位を決める」「ユーザーからのフィードバックを集める」「開発チームと連携する」という4つの役割があると考えています。Sky株式会社には、製品のビジョンを明確にするとともに、開発チームと連携するという点でも、豊富なナレッジを共有いただきながら伴走してもらえました。当社のPOと役割分担をすることで、プロジェクトを円滑に進めることができたと感じています。
展望
「BuddyAIに聞けば何でもわかる」という存在に
今後は、各部門に特化したサブエージェントの構築をさらに進めていきます。業務特性を踏まえながら、各部門に必要なサブエージェントを見極めてもらい、私たちはシステムのコントローラブルなところに注力していきたいと思っています。
KDV2035では、2025年の生産性向上実績を、2027年までに2倍以上に向上させることを掲げています。各部門で最適なサブエージェントを多数構築して全社的に業務変革を進め、当社の業務のことは「BuddyAIに聞けば何でもわかる」という存在にしていきたいと考えています。そして、Sky株式会社と連携して蓄積したアジャイル開発の知見を、ほかの案件にも展開していき、KDV2035の実現に向けたスピード感を高めていきます。