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公開日2024.06.05更新日2024.09.11

自然言語処理(NLP)とは? 意味や仕組みや活用事例を解説

著者:Sky株式会社

自然言語処理(NLP)とは? 意味や仕組みや活用事例を解説

自然言語処理(NLP)とは?

自然言語処理とは、コンピューターが人々が使っている言葉(自然言語)の意味を適切に把握するため技術です。NLP(Natural Language Processing)とも呼ばれ、チャットボットや音声認識AI、文字認識AIに活用されています。

自然言語と人工言語の違い

自然言語とは、日本語や英語などのように、人がコミュニケーションをとるために普段から利用している言語です。人間の長い歴史のなかで自然と発展してきた言語であり、同じ言葉でも使用する人物や状況などによって意味が変わるという曖昧さを含んでいます。

これに対し人工言語は、特定の目的や機能を果たすために人為的に作られた言語を指します。プログラミング言語やWebサイトに使われているマークアップ言語などがその一例です。人工言語は記述方法に明確なルールがあるため、自然言語のような曖昧さはありません。

自然言語処理が注目される理由

なぜ自然言語処理が注目されているのでしょうか。ここでは、その理由についてご紹介します。

テキストデータの増加

自然言語処理が注目される理由の一つが、テキストデータの増加です。SNSなどが普及したことで、インターネット上には消費者の関心やニーズを反映しているテキストデータが多数存在するようになりました。こうしたデータを収集・分析すれば、企業のマーケティング活動などに役立てることが可能です。人力で分析できるデータ量には限界がありますが、自然言語処理の技術を活用すれば、自然言語で記された膨大なテキストデータを分析することができます。

また、近年は多くの企業でビジネスコミュニケーションツールが導入されるようになり、これまで紙で保管されていた資料や記録のテキストデータ化が進んでいます。議事録を生成するツールなども活用が進んでおり、ビジネスの現場では今後もテキストデータ量が増加していく見込みです。こうしたデータを自然言語処理の技術で分析すれば、業務の効率化や人的コストの削減につなげられる可能性があります。

増加するテキストデータの有効活用が求められていることが、自然言語処理への注目が高まっている要因といえます。

汎用的な大規模言語モデルの進化

近年の自然言語処理分野では、「汎用的な大規模言語モデル」の開発が活発に行われています。汎用的な大規模言語モデルとは、AIに大量のテキストデータを学習させることで、わずか数例のタスクを与えただけでも文章作成や機械翻訳などのさまざまな言語処理が可能になる言語モデルです。

広く認知されている「ChatGPT」では、GPTと呼ばれる大規模言語モデルが利用されています。2020年にOpenAI社によって発表された「GPT-3」は、人間が作成したような自然な文章の生成を実現し、その精度の高さが世界中の注目を集めました。

大規模言語モデルの研究が進み、文章の作成や校正、カスタマーサポート、プログラムのバグチェックなどさまざまな用途での活用が期待されるようになったことも、自然言語処理が注目を集める理由の一つとなっています。

DXの実現やデジタル技術の発展

昨今は多くの企業でデジタル技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)が進められており、自然言語処理をビジネスに活用する事例も増えてきています。

例えば、既存顧客とのやりとりで発生するテキストデータを自然言語処理の技術で分析することで、顧客の関心度の高いキーワードリストを自動生成し、新たな施策の立案へとつなげることが可能です。自然言語処理の技術が発達したことでビジネスへの活用の幅が広がっていることも、注目を集める要因になっています。

自然言語処理の流れ

自然言語処理では、「形態素解析」「構文解析」「意味解析」「文脈解析」という4つの工程が順番に行われています。それぞれの作業について、詳しくご紹介します。

形態素解析

形態素解析とは、文章を単語ごとに分割する作業のことです。言葉としての意味を持つ最小単位である単語に分けることで、意味を解析しやすくするのが目的です。例えば「満天の星と月が美しい」という文章を形態素解析すると「満天」「の」「星」「と」「月」「が」「美しい」という単語に分解することができます。

英語など多くの言語では単語同士の間にスペースが入りますが、日本語ではスペースが入らないため、形態素解析が必要になります。

構文解析

構文解析とは、形態素分析で分割した単語同士の関係性を解析する作業です。この段階では、文法的に考えられる構造をすべて検討します。先ほど使用した「満天の星と月が美しい」という例文を構造解析すると、一つの案として「満天 / の / 星 / と」と「月 / が」を主語とし、「美しい」を述語に分類する方法があります。この場合、「満天」なのは「星」のみになります。

また、別の案として「星 / と / 月」をまとめて名詞句とし、「満天 / の」を「星 / と / 月」の形容詞と考えることもできます。この場合、「満点」なのは「星 /と / 月」になります。

意味解析

意味解析は、構造分析で検討したいくつかの解釈の中から正しい解釈を探すのが目的です。辞書を利用し、単語同士の意味や関係性を調べます。先ほどの例文で意味解析をすると「満天=空に満ちている」「星=複数ある」「月=一つしかない」ということがわかります。

この意味解析により、構文解析で検討した2案のうち「満天」が「月」にかかる解釈は間違っているということが判断でき、「満天の星」と「月」が「美しい」という文章であると判断します。この工程までで、一文の正しい意味を理解することが完了します。

文脈解析

文章は、前後の複数の文章とのつながりによっても解釈が変化します。文脈解析では、複数の文に対して形態素解析、構文解析、意味解析を実施することで前後の文章の関係性や文脈を分析します。

文脈解析では、言葉の意味や文法だけでなく、さまざまな領域の知識が必要になります。そのため、機械学習やニュートラルネットワークを用いて精度を向上させる取り組みが進められています。

自然言語処理の活用事例

現在、自然言語処理を活用したさまざまなサービスが誕生しています。ここではいくつかの活用事例をご紹介します。

チャットボット

チャットボットとは、自然言語処理を活用した対話システムです。入力された文章を的確に理解し、それに応じた回答を生成します。製品やサービスに対して顧客から寄せられた質問に、自動で回答するシステムとして活用されるケースが多いです。

日本語のやりとりでは主語や目的語が抜けることも多々あるため、直前の会話などから文脈解析を行い、主語や目的語を記録しながら対話する仕組みになっています。24時間稼働させることができるため、問い合わせ対応に活用している企業が増えており、顧客満足度の向上などにも役立っています。

音声認識AI

音声認識AIの多くが、自然言語処理と組み合わせて運用されています。近年、ビジネスの現場で注目されているサービスの一つが、音声認識によって議事録を生成するツールです。会議などで人が発した言葉をテキストとして記録することができ、会議の終了と同時に議事録が完成します。手入力で作成するのに比べて、漏れのない議事録を作成できるとともに、業務の効率化も図ることができます。

AIは、学習を重ねることで業界用語や業界特有の独特な言い回しなども理解できるようになります。そのため、自動車の音声制御システムや医現現場での診断支援など、幅広い業界での活用が進められています。

文字認識AI

AI-OCRの精度向上にも、自然言語処理が活用されています。AI-OCRとは、手書きの文字をカメラで認識し、文字データへと変換する技術です。文字の書き方は人によって少しずつ異なりますが、誰が書いた文字であっても正しく認識しなければならないため、自然言語処理が文字の読み取りをサポートしています。

紙媒体のデータ化は業務効率化を目指す多くの企業で課題となっており、文字認識AIに大きな注目が集まっています。文字認識AIを活用すれば、書類に手書きされた内容をデータ化し、事務手続きをよりスピーディに進めることなども可能になります。

スマートスピーカー

Amazonの「Alexa」などが有名なスマートスピーカーにも自然言語処理が活用されています。スマートスピーカーは、「今日の天気を教えて」などと指示をすると言葉の内容を理解し、質問に応じた回答や動作をしてくれます。

これは、例えばAlexaの場合、インターネット経由でAmazonのクラウドにつながっており、Alexaの認識した音声がクラウドに送られてテキストに変換されるという仕組みです。自然言語処理によって、テキストからユーザーが求めていることを理解し、数多くあるアプリの中から適切なものを検索。そのアプリを起動したり、アプリから情報を収集することで回答したりしています。

検索エンジン

検索エンジンは、ユーザーが入力した内容を理解し、最も関連性の高い情報を表示するために自然言語処理を活用しています。入力された内容の一部が誤っている場合や、完全に一致していない場合でも、ユーザーの検索意図を想定し、ユーザーが求めていると思われる情報を表示してくれます。

自然言語処理の活用により、ユーザーが検索したい対象物を明確に思い描けていない場合でも、曖昧なイメージやキーワードを頼りにしてデータを探し当てることができるようになっています。

テキストマイニング

テキストデータの中から重要な情報を抽出するテキストマイニングと呼ばれる技術も、自然言語処理を活用しています。テキストマイニングは、SNS上に投稿された内容やカスタマーサポートに寄せられた顧客の意見などから、ユーザーのニーズを分析することができます。人力では扱うのが難しい膨大なデータ量でも、効率的に分析できることがメリットです。

最近は活躍の幅を広げており、医療現場では、患者が訴えた症状や会話のテキストデータなどを解析し、病気との関連性を調べることなどに利用されています。

機械翻訳

Google翻訳をはじめとする機械翻訳も、自然言語処理によって実現しているサービスです。先述したように、近年は機械翻訳の精度が一気に高まっていて、文法的に正しい翻訳をするだけでなく、日常で使用されるような自然な表現に置き換えることもできるようになっています。

文章要約

最近では、自然言語処理を活用して文章の要約も行われるようになっています。AIが文章の内容を理解し、自動で要約してくれる仕組みです。要約するアルゴリズムには、抽出的要約と生成的要約の2種類があります。

抽出的要約は、文章の中で主要となる単語や文章を抽出し、言い換えなどをすることなく要約を作成するアルゴリズムです。複雑なアルゴリズムは必要としないため、自動要約の主流になっています。

生成的要約は、文章の内容を踏まえ、言い換えや短い表現を用いて自然な文章を生成するアルゴリズムです。人間が行う要約のイメージに近い文章を作ることが可能ですが、要求されるタスクも複雑になります。

感情認識AI

人間の感情を読み取る感情認識AIの分野でも、自然言語処理が活用されています。代表的な活用事例として挙げられるのがネガポジ判定と呼ばれるものです。ネガポジ判定とは、文章が「前向き(ポジティブ)」な意味合いなのか、「後ろ向き(ネガティブ)」な意味合いなのかを判定する技術です。ポジティブな単語とネガティブな単語を登録した単語辞書を基に判定が行われます。

アメリカでは、人材流出の防止策として感情認識AIを導入する企業が増えてきています。社員アンケートに書かれた文章などを自然言語処理で分析し、社員が企業に対してどのような印象を持っているのか、どのような不満があるのかなど、従業員の感情や本音を把握する取り組みです。

自然言語処理の課題

ここまで、自然言語処理の発展や仕組みについてご紹介してきましたが、まだまだ課題も残されています。自然言語処理の課題について詳しくご紹介します。

自然言語の曖昧性

自然言語には、言葉が使用される文脈や状況によって意味が変わるという曖昧さがあります。例えば「それはおいしくないって聞いたよ」という一文を理解しようとすると、「それ」が何を指すのか、「聞いた」のは誰なのかなどをこの一文だけから判断することは困難です。

また自然言語では、「お子さま用の椅子は用意していませんが、ご予約はどうされますか」という質問に対して「大丈夫です」と返答するケースがあります。この場合の「大丈夫」は「予約をする」ことを指しているのか、「予約をしない」ことを指しているのか曖昧です。

こうした曖昧な表現を正しく理解することはPCが苦手とする分野であり、技術が発展してきた現在でも課題として残っています。

一般常識や知識の学習

自然言語処理には、人間が持っている一般常識が通用しません。例えば「私は空を飛んで会社に向かった」という文章は、一般常識に照らし合わせると、人間は空を飛べないため「おかしい」内容だとわかります。

しかし、人間が日々の生活の中で身につけている常識や知識を自然言語処理に学習させるのは難しく、自然言語処理にこの内容を「おかしい」と判断させるのは容易ではありません。そのため、文章の内容が「正常」なのかどうかについての判断は、人間による介入が必要となっています。

言語の違いへの対応

自然言語は、日本語や英語などの言語によって特徴やルールが異なります。例えば、英語はそれぞれの単語をスペースで区切りますが、日本語は区切りません。また、日本語では漢字やひらがな、カタカナの使い分けが重要であるのに対し、英語にはそのような使い分けがありません。

システムを複数の言語に適用させるのは難易度が高く、こうした言語の違いにどのように対処していくのかが、自然言語処理の大きな課題の一つになっています。

自然言語処理に関する最新の動向

自然言語処理は、AIアルゴリズムの進化によって急速に発展しています。特に「Transformer」というAIモデルは、文脈理解の精度を大幅に向上させています。機械翻訳や自動要約、質疑応答のシステムがより精密になり、そのTransformerをベースとして、GPTシリーズのような自然なテキストを生成できるモデルも登場しています。

同じくTransformerをベースにした「Google T5」も注目を集めています。ある領域の学習済みモデルを別領域に転用する「転移学習」を利用したモデルで、自然言語処理を客観的に評価するためのベンチマークで優れた記録を残しました。

Transformerは画像認識分野などへの応用も進められていて、Transformerをベースとした画像認識AIの「Vision Transformer」が、従来の画像認識AIより優れた性能を発揮するなど、存在感を示しています。

自然言語処理の今後の展望

自然言語処理の進化は、ビジネスのあり方を根本から変える力を持っています。今後、自然言語処理がさらに発展すれば、顧客データやニーズの分析が容易になり、企業戦略を立案するスピードもより高まっていくと予想されます。また、機械翻訳の精度が向上すれば、異文化間でのコミュニケーションも円滑になり、よりグローバル市場へのアクセスがしやすくなります。自然言語処理は、企業が業務効率化や生産性向上、売り上げアップを図る上で欠かせない技術になるかもしれません。

まと

ここまで自然言語処理の定義や歴史、活用事例や今後の展望などについてご紹介しました。今後、ビジネスにおけるペーパーレス化やテキストデータ量の増加が進んでいけば、自然言語処理はますます重要な役割を担っていくことが予想されます。組織の業務に自然言語処理の導入を検討しているお客様にとって、この記事の内容が少しでもお役に立てば幸いです。