一言にソフトウェアテストの見積もりと言っても、様々な考え方・手法があります。
今回はJSTQB Foundation Levelのシラバスに紹介されている4つの手法について紹介・解説をします。各見積もり手法のメリット・デメリットを把握し、適切な見積もり技法を選択していきましょう。
比率に基づく見積もり
この手法では組織内の過去のプロジェクトでの実績値を参考にし、類似プロジェクトの「標準」比率を導き出すことで求められます。一般的に、組織内のプロジェクトの比率(例えば、過去のデータから取得)は見積もりプロセスで使用する最もよいソースであり、この標準的な比率は新規プロジェクトのテスト工数を見積もるために使用することができます。
例えば、前のプロジェクトで開発工数とテスト工数の比率が 3:2 である場合、今回のプロジェクトで開発工数が600人日と予想される場合は、テスト工数は400人日と見積もることができます。
メリット
- 過去の実績に基づいて比率が設定されるため比較的簡単に見積もりが出せる
- 比率を用いるため詳細な分析を行わずに迅速に見積もりを出せる
- 比率を用いることで異なるプロジェクト間での比較が容易になる
デメリット
- 過去のデータや経験に基づくため、プロジェクトの特性によっては精度が低くなる可能性がある
- 固定化された比率を用いるため、プロジェクトの特性や変更に応じた柔軟性に欠ける
- 過去のデータが不正確であったりする場合に、見積もりの信頼性が低下する
外挿(がいそう)
外挿とは既知のデータ範囲の「外側」にある未知の値を既知のデータを用いて推定する手法で、開発工程の一部の詳細な見積もりから全体を見積もる際に使用されます。
- 既知のデータを収集
- データの分析
- 予測モデルの構築
- 予測の実行
メリット
- 過去のデータに基づき将来の値を予測するため、必要なデータが揃っていれば比較的簡単に見積もりを行うことができる
- 新たな調査やデータの収集を行う必要が無いため、見積もりに掛かるコストを抑えることができる
デメリット
- 過去のデータに基づくため、外的要因などの影響を大きく受ける場合は精度が低くなる可能性がある
- 過去のデータの量や質が不足している場合は信頼性が低下する
ワイドバンドデルファイ
これは複数名の専門家が各々見積もった推定値を持ち寄って議論する方式です。
- 各専門家は単独で見積もりを行う
- その結果を収集し、それぞれの見積もりについて議論を行う
- 議論の内容に基づき、再び単独で新たな見積もりを行う
- 合意が得られるまで2、3のプロセスを繰り返す
メリット
- 複数の専門家の意見を集約するため、信頼性の高い見積もりが可能
- 全員の意見を集約するため合意に基づいた見積もりを作成することができる
- 複数の専門家によるさまざまな視点や経験が反映されるため見積もりの質が向上する
デメリット
- プロセスを繰り返す中で意見を集約していくため見積もりに時間とコストがかかる
- 専門家の選出が適切でない場合に正しく見積もりが行えない可能性がある
- 見積もり者間での意見が大きく異なる場合に、見積もりの合意形成に時間がかかることがある
三点見積もり
これは一人のエキスパートが3つの観点に沿って見積もりを出し、それらを基に算出する見積もり手法です。
三点見積もりにおける3つの観点とは以下であり、
- 最も楽観的な推定値(a)
- 最も可能性の高い推定値(m)
- 最も悲観的な推定値(b)
この観点によって導き出された推定値を計算式に当てはめて工数を算出します。
E=(a+4*m+b)/6
また、見積もりの誤差(SD)を測る計算式もあり、その計算式は下記となります。
SD = (b-a)/6
シラバスに記載されている例でこの見積もり手法を用いると、見積り(人時)が a=6、m = 9、b = 18 の場合、
E =(6+4*9+18)/6=10
SD = (18-6)/6=2
なので、最終見積りは 10±2 人時(つまり、8人時~12人時)となります。
メリット
- 見積もりの信頼範囲を把握することができるため、見積もりの精度が向上する
- 楽観値と悲観値を考慮することで、リスクを見積もりに反映させることができる
- バッファを考慮した見積もりに適している
デメリット
- 3つの値を用いて計算を行うため他の見積もりに比べて計算が複雑
- 3つの値を基に見積もりを行うため各値の精度が重要となる
参考資料
ISTQBテスト技術者資格制度
Foundation Level シラバス 日本語版 Version 2023V4.0.J02

