
機械学習とは? 仕組みやディープラーニングとの違い、事例を紹介

近年、AI技術は飛躍的に発展し、日常生活をはじめ、製造業や小売業、医療現場など、分野を問わずあらゆる場面で頻繁にAIが利用されるようになりました。その背景にあるのが「機械学習」の技術です。機械学習では、コンピューターがデータから学習を繰り返し、パターンやルールを見つけ出すことで、データの分類や将来の予測などを可能とします。この記事では、機械学習の仕組みやディープラーニングとの違い、用いられる手法や活用事例などについてご紹介します。
機械学習とは何か
機械学習とは、コンピューターが大量のデータからパターンやルールを学習することによって、未知のデータに関する識別や予測を実現するデータ解析技術のことです。学習方法には「教師あり学習」「教師なし学習」「強化学習」の3種類が存在し、適切な手法を選択することで、機械学習の精度や効率性を高められます。
機械学習は、人間が日常的に行う「学習」に相当する仕組みをコンピューターで実現するものであり、AIを支える技術の一つとして位置づけられます。AIの発展とともに注目を集め、自動運転やマーケティング、金融工学、医療など、幅広い分野に影響を与えています。
機械学習の仕組みとは
機械学習では、膨大な量のデータをコンピューターに読み込ませ、さまざまなアルゴリズムを適用してデータを解析します。反復的な学習によって、データの中に潜む特徴や規則性を見つけ出すことが可能です。
適用するアルゴリズムは、分析対象となるデータの特性や分析目的に応じて異なります。例えば迷惑メールのフィルタリングなら、迷惑メールに頻出するキーワードを識別するアルゴリズムを用いることで、通常メールとの区別を行います。
ディープラーニング(深層学習)とは何が違うのか
ディープラーニングとは、機械学習を行う手法の一種です。従来型の機械学習よりも学習精度の向上と自動化が進められたものであり、AIを開発するための技術の一つとして捉えられます。
機械学習では、特徴量(識別や予測に用いられるデータセット)を人間が定義するのが一般的です。一方、ディープラーニングでは、人間の脳の神経回路を模したニューラルネットワークの仕組みを用いることで、着目すべき特徴量をコンピューターが自動で判別できます。
例えば、従来型の機械学習では、ブロッコリーとカリフラワーの画像を識別する場合に「まず色に着目すればいい」という知識を人間がコンピューターに与える必要がありました。ディープラーニングの場合には、コンピューターが自ら識別方法を見つけ出すことが可能なため、そういった手間が省かれます。さらには、学習を繰り返すことによってモデルとしての精度が高まり、人間には思いもよらなかった識別方法を発見することもあります。
機械学習の3つの手法
機械学習の手法には、「教師あり学習」「教師なし学習」「強化学習」の3種類があり、それぞれに特徴や得意とする領域が異なります。ここでは、それぞれの手法について紹介します。
1. 教師あり学習(Supervised Learning)
教師あり学習とは、ラベルを付与した「正解データ」を学習データとして事前に与えることで、データ間の関係性を認知させる学習手法です。
教師あり学習が活用されるアルゴリズムの代表例が「回帰」と「分類」です。回帰では、連続的な値を持つ正解データを導き出します。例えば、株価や気温などの変化の予測が該当します。一方の分類では、離散的な値の正解データを導き出します。例えば、画像内に含まれる動物が犬か猫かを判別するケースなどが当てはまります。
なお、教師あり学習では、学習時間の短縮や予測の精度に直結するため、質の高い正解データを事前に用意することが大切です。
2.教師なし学習(Unsupervised Learning)
教師なし学習とは、ラベルづけされていないデータセットに基づいて、コンピューターが自律的にデータ同士の関係性や規則性を見つけ出す学習手法です。
2012年には、教師なし学習で猫を認識できるAIをGoogle社が開発して話題となりました。1週間、Web上の画像や動画を大量に読み込ませただけで、「猫」という存在を自力で認識するまでに至っています。
このように、教師なし学習ではデータ間の関係性を見いだし、それに基づいてデータをグルーピングすることを得意としています。この過程は「クラスタリング」と呼ばれ、ECサイトのレコメンデーションなどに応用されています。
正解があらかじめ用意されている「分類」とは異なり、データ自体が持つ特徴に基づいてグルーピングを行うのがクラスタリングです。人間では気づけないような相関関係も、教師なし学習なら見つけられる場合があります。
3.強化学習(Reinforcement Learning)
強化学習とは、将来的な報酬を最大化する行動を見つけ出す学習手法です。かつて、Google社が開発した囲碁プログラム「AlphaGo」が世界チャンピオンに勝ったことが話題となりました。このとき使われていた学習手法が強化学習です。
強化学習は、教師あり学習や教師なし学習とは異なり、事前にデータセットが与えられない点が特徴的です。解決すべき課題のみを設定し、コンピューター自身が行動と結果の評価を繰り返すことで、最も適した行動パターンを識別します。
より精度を高める方法として、強化学習とディープラーニングを組み合わせた「深層強化学習」という技術も生まれています。強化学習は、その適応力の高さから、人間の判断能力を超える可能性がある分野として注目を集めています。
機械学習の5つの活用事例
機械学習は、日常生活のさまざまな場面で活用されています。ここでは、「データ分析」「データ予測」「画像認識」「音声認識」「自然言語処理」の5つの観点から活用事例を紹介します。
1. データ分析での活用
膨大なデータを収集・整理して特定の傾向を見つけ出すことで、有益な情報を抽出します。例えばECサイトでは、ユーザーの閲覧商品や購入商品の履歴を分析することで、個々のユーザーに合うと見込まれる商品の「お勧め」が可能となります。より細かいレコメンデーション機能によって、ユーザーの購買体験が快適になり、企業は売上を伸ばしやすくなります。
また、取引履歴のデータを学習させることでクレジットカードの不正利用の検知もできるほか、製造業において工場の製造ラインの異常や不良品の発見にも役立ちます。このように、通常では考えにくい異変が起きている場面でも、機械学習によるデータ分析は活用されています。
2. データ予測での活用
統計モデルと機械学習を組み合わせて、将来的な傾向や起こり得る出来事を予測します。
例えば、小売業や製造業では商品の需要予測に役立てられます。過去の売上データを用いて分析することで、商品の仕入れや製造が過剰となることを防げる上、新商品の販売数を高精度で予測してマーケティングに生かすことも可能です。
また、金融機関では市場の動向を予測して株価の変動を素早く察知するなど、リスクを抑えた投資に向けた戦略が立てやすくなります。農業では、気象データから未来の天候を予測することで、収穫量の増加や品質の向上につなげられます。
3. 画像認識での活用
画像に含まれる特定の人物や物体を識別して、特徴を抽出します。
例えばスマートフォンのカメラ機能で写真を撮影する時には、顔へのピントが自動で合わせられます。また、SNSでは投稿された写真に写る友人のタグづけが自動で行われる機能があるほか、画面のロック解除などのセキュリティ認証にも顔認証が用いられるのが一般的となりました。
また、医療分野では、病気の早期発見や重症度の判定といった診断のサポートをするシステムも開発されています。CTやMRIなどの画像からがんの発症リスクを予測するなど、問診や血液検査などのデータをはじめとする患者の複雑な医療データの分析に機械学習が役立てられています。
4. 音声認識での活用
人間が話す言葉をコンピューターが理解できる音声信号として解析し、文字情報に変換します。
例えば、カーナビゲーションシステムでは、目的地の設定からルート検索まで、音声だけで操作できるものが増えています。運転中の安全を確保しながら、より円滑にナビを操作することが可能です。また、コールセンター業務でも、音声認識システムの導入により、電話応対や通話内容の分析といった業務の自動化が進められています。
SiriやGoogleアシスタントといった、スマートフォン搭載の音声アシスタントでも機械学習は活用されています。「今何時?」と尋ねるだけで細かな時刻を教えてくれるなど、まるで人間と会話しているかのようなやりとりが実現しています。
5. 自然言語処理での活用
人間の言葉をコンピューターが解析して理解し、テキストデータを生成します。
例えば機械学習を活用したチャットボットでは、ユーザーが投げかける複雑な質問に対して自然な言葉で返答することが可能です。時間を問わず稼働できるため、音声認識と併せて、カスタマーサポート全般の省人化に役立てられています。
また、メールの自動分類や翻訳、文書の要約といった日常的なタスクの効率化にも、機械学習は多大な影響を与えています。特に、ChatGPTやGeminiなどをはじめとする対話型生成AIの台頭は著しく、優れた自然言語処理を可能とする技術として知られています。
まとめ
機械学習について、その仕組みやディープラーニングとの違い、活用事例などを紹介しました。機械学習はAIを支える重要な要素の一つであり、分析目的や対象の特性に応じて適切なアルゴリズムを選択して活用すれば、人間の能力すらも上回る、より精度の高い識別や予測が可能とされています。
メールの自動分類などの日常的なタスクの効率化から、病気の早期発見といった重要な場面まで、暮らしを支える実践的な技術として、機械学習のさらなる発展に期待が寄せられています。