
マルチモーダルAIとは何? 意味やシングルモーダルAIとの違い、活用法をわかりやすく解説

AIの発展は急速に進んでおり、テキストや画像の生成など、単なる情報解析にとどまらない活躍をみせています。そのなかでも特に注目されているのが、単一の情報だけを扱うのではなく、画像や音声、センサー情報といった異なる複数の情報から統合的に学習して高度な処理を実現する「マルチモーダルAI」です。その応用範囲は幅広く、完全自動運転の実現や病気の早期発見など、さまざまな領域での活用に期待が寄せられています。この記事では、マルチモーダルAIの仕組みや活用法、今後の展望などについてご紹介します。
マルチモーダルAIとは何か
マルチモーダルAI(Multimodal Artificial Intelligence)とは、テキスト、画像、音声、センサー情報など、複数の異なるモダリティ(データの種類)から収集した情報を統合して処理するAIモデルのことです。さまざまなデータを組み合わせることで、より深い理解や洞察、問題解決の手段を得られます。なお、複数のモダリティから学習することはマルチモーダル学習(Multimodal Learning)と呼ばれます。
マルチモーダルAIの代表例として、OpenAI社による生成AIの一種であるGPTシリーズが挙げられます。2023年発表のGPT-4以降、従来の大規模言語モデル(LLM)に画像解析機能や音声入力機能が組み合わされるといった著しい進化を遂げるにつれて、ますます新しいAIの形に注目が集まっています。
マルチモーダルAIとシングルモーダルAIに違いはあるのか
マルチモーダルAIのほかに、単一のモダリティのみを用いた処理を行う「シングルモーダルAI」があります。それぞれの仕組みのイメージは下図のとおりです。
マルチモーダルAIは、多種類のデータを処理して高い精度で出力することが可能なため、深い洞察を導くなど複雑な問題への対応が可能です。一方、シングルモーダルAIは単一のモダリティのみを用いた限定的な処理を行うため、単純な用途に向いているといえます。例えば、「映像データからテキスト情報を出力する」といったことが可能です。
マルチモーダルAIとシングルモーダルAIの違いは、以下のようにまとめられます。
マルチモーダルAI | シングルモーダルAI | |
---|---|---|
扱うデータの種類 | テキスト、画像、音声など、複数の異なるモダリティを用いる。 | 単一のモダリティのみを用いる。 |
処理手法 | 複数のモダリティを統合して、相互作用や相関関係を割り出す。 | 単一のモダリティに特化したアルゴリズムやモデルを利用する。 |
応用範囲 | 複数のモダリティ同士が補完し合うことで、精度の高い予測や豊かな表現が可能。応用範囲は多岐にわたる。 | 応用範囲は特定の領域のみ。単一のモダリティを用いるため相互補完はできず、表現が制約される場合がある。 |
現在の主流はシングルモーダルAIですが、応用範囲が格段に広いマルチモーダルAIは今後ますます身近な存在になると考えられています。
マルチモーダルAIの活用法について
マルチモーダルAIは、さまざまな分野で活用できます。ここでは、その一例として自動車と医療の分野での活用イメージをご紹介します。
完全自動運転の実現
交通事故の大幅な削減といった社会的な課題の解決に向けて、自動運転の研究が世界中で活発に行われています。そうしたなか、マルチモーダルAIはその核となる技術として知られています。
人間が運転をするときには、車両や歩行者の位置、交通標識や踏切の警笛、エンジン音など、さまざまな情報から総合的に状況を判断しています。完全自動運転に向けてこうした高度な判断を再現するためには、画像処理のほかにも音声や自然言語などの情報を統合して処理できるマルチモーダルAIの技術が不可欠です。
医療ビッグデータの解析
民間企業と公的研究機関、大学病院などが連携し、医療ビッグデータを統合的に解析するマルチモーダルAIを開発した例があります。
この例では、罹患者の多いがんの一つである前立腺がんを対象としており、がんの組織画像や電子カルテなどを組み合わせて多角的に解析することで、手術から5年後までの再発予測の精度を向上させることに成功しました。これにより病気の早期発見や治療計画の最適化が可能となるだけでなく、医療費の削減や医療スタッフの負荷が軽減されることにも期待が寄せられています。
マルチモーダルAIの現状と今後
このようにマルチモーダルAIは人間の生活を豊かにする可能性に満ちていますが、その一方で課題も存在します。ここでは、マルチモーダルAIの現状と課題、そして今後の展望についてご紹介します。
マルチモーダルAIの課題
マルチモーダルAIの課題として、「データ処理の負担が増えること」と「判断根拠がわかりにくいこと」の2点が挙げられます。
前提として、一般的なAIモデルの学習では、学習データに対して教師情報となるタグを付与する「アノテーション」と呼ばれる作業を行います。この作業には膨大な手間とコストが必要ですが、複数の異なるデータ同士が補完し合うマルチモーダルAIでは、このラベル付けのコストは削減できると考えられます。
その一方で、マルチモーダルAIにとって問題となるのは、さまざまな種類のデータを扱うがゆえに、単一のデータを扱うシングルモーダルAIと比較してデータの絶対量が増えることです。これにより、大規模なデータを効率よく扱うための技術や計算基盤だけでなく、データの種類に合わせた適切な解析方法の用意までもが必要となります。これが1つめの課題です。
また、マルチモーダルAIでは種類の異なるさまざまなデータを統合して処理するため、最終的に導き出された判断の根拠がわかりにくいという課題もあります。いくら精度が高まっているとはいえ、AIによる判断は絶対的なものでなく、内容によっては人による慎重な検証が必要です。
こういった現状を受け、AIが行った判断の根拠を可視化してユーザーに示す技術が求められています。この技術は「説明可能なAI(XAI:Explainable AI)」と呼ばれ、AIが人間からの信頼を得て社会で活用されるために重要視されています。
マルチモーダルAIの今後
マルチモーダルAIの進化は今後ますます加速し、より高度で複雑な場面での活用が期待されています。
マルチモーダルAIは、大規模なデータセットを用いることなく複数のモダリティから効率良く学習が行えるため、新しい状況に対して柔軟に対応することが可能です。例えば、膨大なラベル付きデータを必要としない「自己教師あり学習」や、既知のデータから抽出した特徴を利用して未知のデータを識別する「ゼロショット学習」など、新しい学習手法の導入によって、データ処理の負担を抑えられます。
特に、ChatGPTなどの自然言語処理技術を用いた大規模言語モデルはますます注目を集めています。早期から活用が進められてきたテキストや画像に加え、音声やセンサー情報などを統合した学習が進められれば、異なるモダリティ間の相互理解が深まり、より自然で直感的なユーザーインタフェースや高度なパーソナライゼーションの実現に結びつきます。これにより、個々のユーザーに最適化されたサービスが提供できるようになると考えられます。
このように、マルチモーダルAIはさまざまな領域で効率化や高度な提案を可能とするようになり、社会全体の利便性や生産性を向上させる可能性をもっています。例えば、前述した完全自動運転の実現や医療ビッグデータの解析のほか、工場における製造プロセスの最適化、小売業におけるカスタマーサービスの質の向上、教育現場における個別学習支援の改善など、多岐にわたる分野でその恩恵が期待されています。
まとめ
マルチモーダルAIは、画像や音声などの多様なデータを統合して、高度な分析や判断を導き出せる技術です。従来のシングルモーダルAIと比べて幅広い応用が可能であり、精度も格段に向上しています。
今後、生成AIの発展とともにマルチモーダルAIは進化し、さらに重要性が増すと考えられます。より自然で直感的なユーザーインタフェースや高度なパーソナライゼーションが実現するなど、日々の生活やビジネス環境に与える影響は計り知れないといえます。