
生成AIにおけるRAGとは? 仕組みやメリット、活用場面をわかりやすく解説

昨今は生成AIの技術革新が進み、ビジネスへ活用する事例も増えています。そんななか、大規模言語モデル(以下、LLM)によるテキスト生成の精度を高める手段として注目を集めているのが「RAG」です。これは、生成AIが最新情報や社内情報を参照することを容易にするための技術です。この記事では、RAGの概要や仕組み、主なメリットや導入事例、効果的に利用するためのポイントについてご紹介します。
RAGとは何か
RAG(Retrieval-Augmented Generation)とは、LLMによるテキスト生成を行う際に、外部のデータベースを検索する機能を組み合わせることで、出力の精度を向上させる技術のことです。日本語では「検索拡張生成」または「取得拡張生成」と訳されます。
LLMは、膨大なデータと高度なディープラーニング技術によって人の「言葉」や「文章」を学習し、文章の作成や要約などを行います。そこにRAGを活用すれば、まだ学習していない情報まで検索して回答を出力することも可能になります。
RAGを構成する2つのフェーズ
RAGは「検索」と「生成」という2段階のフェーズを経て、回答を出力します。以下で、RAGが動く仕組みとそれぞれのフェーズの特徴について解説します。
検索フェーズ
ユーザーがRAGを搭載したアプリケーションに質問などを入力すると、アプリケーションは未学習の知識を補うために外部の文書やデータベース内を検索して、質問内容との関連性が高い情報を集めます。検索の方式や精度、取得した情報のフォーマットの整備などをアプリケーションの開発者が工夫することで、より正確な回答を出力することができます。
生成フェーズ
次に、検索フェーズで得た情報とユーザーからの質問を組み合わせたプロンプト(リクエスト)を、アプリケーションからLLMに送信します。これを受けて、LLMが回答を生成してアプリケーションに返送し、アプリケーション上に回答が表示されます。回答の精度を向上させるためには検索フェーズでの工夫に加え、プロンプトの精度などを改善していくことも大切です。
RAGのメリット4選
RAGを活用すれば、LLMを単体で利用する場合と比べて出力精度が向上することはもちろん、さまざまなメリットを得られます。ここでは、RAGの主なメリットを4つご紹介します。
出力結果の信頼性が向上する
LLMを単体で利用する場合、LLM自身の学習済みデータベースのみを使って回答を生成するため、データの偏りによって誤った情報が作り出される「ハルシネーション」が起こるリスクがあります。一方RAGは、外部から正確な情報を探し、明確な根拠に基づいて回答を生成することから、LLM単体の利用と比べて回答の信頼性が向上します。
情報の更新が容易になる
LLMに蓄積された情報の追加や更新をしたい場合、通常は再学習を行わなければなりません。しかし、RAGを利用すればこうした手間を削減できます。参照するデータベースさえ最新の状態に保たれていれば、常にリアルタイムな情報を反映した回答を生成できるほか、その時々の状況に応じて利用したい情報を集めるだけで済むため、事前に学習しておく必要もありません。
費用対効果が高まる
前述のとおり、RAGの活用は再学習の手間の削減や、ハルシネーションの防止につながります。その結果、再学習に必要なデータセットの準備や環境構築、継続的な改善のためにかかるコスト、誤情報の提供による損失などを削減することも可能になります。再学習には多大なコストがかかるため、高い費用対効果が期待できます。
個別に最適化された回答ができる
LLMは基本的に、インターネット上に公開された情報から学習を行うため、参照できる情報は限られています。しかしRAGなら、インターネット上に公開されていない情報をデータベースとして設定することも可能です。専門分野の詳細情報、社内向けの資料やマニュアルといったデータを参照できるようにすれば、個々の用途により最適化された回答を生成できます。
活用シーン
RAGの代表的な活用シーンの一つに、「チャットボット」があります。RAGは社内マニュアルや過去の事例といった非公開情報も参照にできるため、あらゆる分野でチャットボットとして活用することが可能です。
チャットボットを導入すると、手作業で資料やマニュアルを確認する必要がなくなるため、オペレーターの習熟度に影響されない均一化された応答や、顧客の待ち時間の短縮が実現できます。人の手で行わなければならない作業が減れば、人的リソースを再配分し、コア業務により注力できるという利点もあります。
具体的な活用例としては、金融業界における融資稟議書の作成や、地方自治体に寄せられるごみの分別の問い合わせ対応などが挙げられます。また、医療業界ではオンライン診療といった専門的な回答が求められる場面において、医療従事者が迅速に正しい情報を確認できるよう手助けするアシスタントとして活躍しています。
社内でRAGを活用するためのコツ
RAGを正しく活用すれば、社内情報を基に適切な回答を出力してくれる生成AIを実装し、業務に利用することも可能になります。より効果的に活用するために意識すべきポイントには、以下のようなものがあります。
高精度な検索エンジンを用いる
RAGの回答精度は外部情報の検索結果に大きく左右されるため、効果的に活用するには高精度な検索エンジンの採用が必要不可欠です。精度の高い検索エンジンであれば、検索結果の中から迅速に適切な情報を選んで取得できます。
また、検索精度の向上のためには、「キーワード検索」や「ベクトル検索」といった検索方法の中から目的に応じた手法を選択することや、参照する外部情報を最新の状態に保つことも重要です。
閲覧権限を十分に考慮する
社内情報の中には、特定の部署のみ閲覧が許可されている情報や機密情報などが存在します。こうした情報を含むすべてのデータにAIがアクセスできる状態になっていると、AIの回答から本来は知り得ない情報を知ってしまう、といった問題が起きかねません。
RAGを用いた生成AIを導入する場合は、社内情報の閲覧権限をしっかりと考慮し、情報漏洩やセキュリティ事故につながることがないよう注意する必要があります。
まとめ
RAGの仕組みや期待できる効果、活用する際のポイントなどをご紹介しました。RAGによって検索機能とLLMを組み合わせることで、双方の欠点を補い合い、より良い形で生成AIをビジネスに活用することが可能になります。
幅広い情報にアクセスできるからこそ注意が必要な点もありますが、適切に利用すれば、大幅な業務効率化も見込めます。顧客からの問い合わせ対応や、社内でのナレッジ活用についてお困りの際は、ぜひRAGの利用を検討してみてください。